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「跣足」―削ぎ落とされた美しさ

  4月号に続き、今月も俳人協会新人賞受賞作をご紹介したい。作者の藤本美和子さんは、昭和25年和歌山県生まれ。昭和60年に綾部仁喜氏に師事。平成9年度に「泉賞」を受賞、現在「泉」同人。「『句集出版』は、私にとってのまさに40代最後の駆け込み出産さながらであった」と、みずから語るように、まさに49歳での新人賞受賞となった。(新人賞は50歳まで)
 藤本さんの句集には、削ぎ落とされた美しさがある、と思う。加えて観察力が非常に鋭い。

  傾いてゐるところより春野かな

  餅花のかろくなりゆく高さかな

  映りたるものの吹かれて鴨の水

  まくなぎの群はひつぱりあひにけり

 修辞法――例えば擬態語の使い方なども巧みである。

  さやさやと並び直せる燕の子

  はればれと佐渡の暮れゆく跣足かな

  たつぷりと海を見てきし初暦

  山風のひやひやとせる夜干梅

 そして、私がこの句集をとくに好むのは、作者が五感をフルに働かせて句を作っているところである。たとえば、

  踝に水のあつまる晩夏かな

  桃畑の土柔らかく坐りけり

などに見られる皮膚感覚。

  春潮の匂へる筵巻かれけり

  水使ふ音のしてゐる遅櫻

のような、かすかな音や匂いを聞き分ける繊細な感覚。また、

  新しき色の加はる金魚玉

  夕潮の満ちてきたりししやぼん玉

  青柚子の数へなほされては増えて

  みちのくのいろとなりゆく吊し柿

などのような豊かな色彩感覚も、この句集がもつ大きな魅力の一つと思う。作者は絵も描いているのであろうか、「鳥渡る寒色系の絵の具棚」「パレットに緑蔭の色置かれけり」等の句も散見されるのである。

 句柄は、明るく、はればれとしている。まるで作者の人柄をそのまま映し出しているかのように。

  大空の明るく暮るるお年玉

  羽子板を抱へなほせる潮かな

  彗星のように現れた新人賞作家に心からエールをおくるとともに、これからの作品を楽しみに待ちたい。

   (「炎環」2000年5月号掲載)

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