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証言・昭和の俳句

 俳句総合誌「俳句」(角川書店)では、5月号で「昭和俳句を見直す」との大特集を組んでいる。昭和27年に創刊され、つねに戦後俳句とともにあった「俳句」は、次号6月号で創刊満50年となる。
 そんなおりしも、『証言・昭和の俳句』(上・下)が出版された。本書は黒田杏子氏のインタビュー構成によって、同誌に平成11年1月号から翌年6月号までの1年半にわたって連載されたもので、激動の昭和を駆け抜けてきた13人の俳句作家たちの実体験に基づくエピソードが肉声で語られている。
 収録作家は金子兜太・桂信子・鈴木六林男・佐藤鬼房・中村苑子・三橋敏雄・古沢太穂・沢木欣一・津田清子・成田千空・草間時彦・深見けん二・古舘曹人の各氏。それらの作家たちに向かい、聞き手の黒田杏子氏は、まさしく全身全霊で取材にあたっている。
 たとえば金子兜太の章だけでも、生きた昭和俳句を語るのに十分な内容である。まだ10代の頃の「成層圏」での竹下しづの女との出合い。加藤楸邨との出合い、同門の沢木欣一・森澄雄らのこと。若い兜太が見る等身大の中村草田男、その後の草田男との論争。そして「第二芸術」論、現代俳句協会の分裂等々…。
 さらに三橋敏雄・鈴木六林男が語る西東三鬼、京大俳句事件。その事件に絡む三鬼の名誉回復裁判の舞台裏…。当時者しか語れない事実が、証言者みずからの声で語られている。
 いっぽう同時代を生きた女流・桂信子の生きざまもまた、ドラマに満ちている。大空襲で家が焼けてゆく中で、とっさに懐に入れて逃げた、のちの『月光抄』の句稿。
 すでに証言者13人のうち5人は鬼籍に入り、「証言」は「遺言」となってしまった。
 「生きた昭和俳句史」を知るために、俳人のみならず、歌人の方にもぜひ読んでいただきたい一書である。

   (信濃毎日新聞2002年5月23日朝刊掲載)

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