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「葉風夕風」―深は新なり

 句集を開くと、一陣の風がわたってくるような気がした。葉風は草木の葉を吹き動かす風。あとがきによると、句集名『葉風夕風』は、ある日ふと、自らの心を和ませるかのように思い浮かんだことば、という。

 友岡子郷氏は1934年神戸市生まれ。学生時代より作句、「ホトトギス」「青」等を経て、飯田龍太主宰の「雲母」に所属。現在「椰子」代表、「柚」「白露」同人。第1回雲母選賞、第25回現代俳句協会賞受賞。本句集は『翌』(平8)以降387句を収録する氏の第7句集である。

  春祭湖舟に笹を立て交し

  みづうみの夕映に蕗洗ひをり

  冬の日のあをむところに針魚干す

  いづこにも船の影なき飾り臼

  そこここに白波の総返り花

 作者自身、「(『翌』以降)句作の機会をふやすように努めた」と語っているが、これらの句もそんな「俳句をつくる旅」から生まれたのだろうか。しかしながら、『葉風夕風』を読みすすんでいくと、もはや「俳句の旅」などということではなく、人生そのものが旅であるということを、氏の作品をとおして再認識させられるのである。

  きのふより雨の川留め手毬唄

  布団たたみをへて清流ひびきけり

  花杏十とせ汲まざる家井あり

  泳がせて濯ぐ産着や赤のまま

 「葉風夕風」の世界を色彩にたとえるなら、淡いモノ・トーン。その中に存在する純白。

  菜を洗ふ間も雪山は雪加ふ

  ひとつづつ水輪寄せあひ雪の鴨

  雪の日向にたたみ置く諸子網

  まつさらの雪へ湖舟を揚げむとす

 淡い色彩に点ずる緋色も美しい。

  緋桃咲く恋風もそのあたりより

  火にくべてゐるは下絵か夕ざくら

 「深は新なり」――そんな言葉が過ぎった。

 なお、昨年末の総合誌や年鑑において、多くの方が『葉風夕風』を今年の句集ベスト1あるいはベスト5に推していたことを付記したい。

  雁来紅あすは風荒れかもしれず

  一・一七忌蝋涙は地に凝り

  朝の舟梨のはなびらのせゆきぬ

   (「炎環」2000年2月号掲載)

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