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オルゴール

 二夜にわたってラジオに出演する機会があった。「オルゴールは春の調べ」と題する90分番組で、東京・目白の「オルゴールの小さな博物館」館長・名村義人氏をゲストに、世界のオルゴールの名品を聴くという、早春にふさわしい番組であった。
 出演者は名村氏と私、司会のNHKアナウンサー、それに1日交替でオルゴールメーカー・企画開発の上島正氏、フリーアナウンサーの押 阪忍氏。2日間の番組中私に与えられた役割は、オルゴールの名曲を聴きながら、その場にふさわしい俳句を作るというものだった。
 オルゴールといえば、私には大切にしているオルゴールがある。箱型の小さなオルゴールで、蓋の上には、大粒のルビーを思わせる真紅の飾りがついている。父の転勤による引っ越しで、仲の良かった友達と別れなければならなくなったとき、記念にもらった、私の最初の「メモリアル・オルゴール」である。
 曲は「禁じられた遊び」。まだ子供だった私は、眠りにつくとき必ずこのオルゴールをかけた。螺子いっぱいに巻いた軽やかなメロディーがしだいに緩やかになって止まるとき、私は眠りの中にいた。
 放送中にオルゴールにまつわる思い出を求められたとき、私はそんな話をした。
 その後、私の「メモリアル・オルゴール」は少しずつ増えていった。誕生日に両親からもらったオルゴール、大学卒業記念のオルゴール……。曲もトロイメライ、白鳥の湖、エーデルワイスと懐かしい曲ばかりである。
 私は淋しいときや悲しいとき、家じゅうのオルゴールを一度に鳴らすことがある。そんなとき、私はオルゴールのメロディーを聞いているのではなく、オルゴールの透明な音の空間に身を置き、心を癒しているのかもしれない、と思う。
 「オルゴールは心に風を送る」――番組中の名村さんの言葉が今も胸に残る。

  北窓を開きねぢ巻くオルゴール 聡子

   (信濃毎日新聞2002年4月11日朝刊掲載)

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